2026年3月17日火曜日

C19体験記


C19で学会発表をしてきました。C19は初めての学会参加だったのですが、非常にいい経験ができました。自分にとっての備忘録も兼ねて、少し雑感を記しておきます。

学会会場のHyatt Regency。アメリカの学会は大学でやることもありますが、大きな学会はホテルのフロアを貸し切ってやることもあります。宿泊もここだったので、基本的にはずっとホテルの中にいました。

これまでの発表履歴を振り返ると、私はMLA, ALA, Melville Conference, MELUS等々のアメリカの様々な学会で10回以上発表してきましたが、それぞれの学会に特徴はもちろんあり、なかでもC19は毛色が違うというか、特徴的な何かを感じました。

その「何か」を探ってみると、まずは作家協会の学会(e.g. Melville Conference)でもないし、作家協会の集まり(ALA)でもないし、全てを統合した学会(MLA)でもなく、19世紀アメリカ文学に特化した学会なので、時代区分、作家、作品など、あらゆる面でほどよく幅広く網羅している学会、という感じです。

そのため、私がこれまで何度も参加しているMelville Conferenceでは見かけないような大物研究者もたくさん来ていたし、発表内容も多岐にわたっていました。

あとは、いわゆる「キャノン」からの意識的な距離を感じます。唯一、私が発表したパネルはメルヴィルに特化したものでしたが、メルヴィルは例外的で、他に白人キャノン作家の名前(ホーソーン、ディキンソン、ジェイムズなど)を冠したパネルは一つもありませんでした。学会誌のJ19もそうですが、人種的・ジェンダー的多様性を強く意識した学会であるとは確実に言えるでしょう。以前、論文を投稿した時にもらった査読コメントでもその点を感じたことがあるので、改めてこの学会の特性を把握できた気がします。

逆に言うと、多様性を目指すこのC19にあってもメルヴィルは特別な位置を占めているのだな、ということも認識できました。今後もアメリカ・イギリスのUPからメルヴィルに関する単著がいくつか出るらしいし、たとえば今のアメリカでホーソーンやジェイムズに関する単著が出るというのはあまり想像できない、ということも他のアメリカ人研究者とも話しました。それはメルヴィル作品が政治的なトピックを扱っていることと関係しているのかもしれない、と個人的には思っています。

さらに逆に言うと、なかにはこうした学会に距離を感じる研究者もいるだろうし、そういう人はALAや作家協会の学会に行ったりするのかもしれません。

発表のトピックの傾向としては、大きく言うと「環境」に関する発表が多かったです。Plant Studies, New Materialism, Anthropocene等々。これはメルヴィル研究の動向にも言えます。また、シンシナティというアボリショニズムゆかりの場所で開催されたということもあり、Frances E. Harperをはじめとする黒人作家に関する発表が非常に多かったです。あともちろん、ストウに関する発表も。

J19の編集者2名による、論文審査プロセスを教えてくれる講座みたいなものもあり、こちらも参加しました。だいたいが知っている内容でしたが、何度も強調していたのは「研究は対話」である、という点です。一人の編集者が、論文を書くことはパーティでの会話に途中から参加するようなものだ、と言っていて、これはまさに私がいつも学生指導で言っていることなので、膝を打つような思いをしました。我ながら、学問的対話を表現するのにこれ以上に適切な比喩をいまだに思いつきません。

あとは採択率とか、審査に至る詳細なプロセス(査読者を見つけるのが大変)とか、編者サイドの視点の話などをいろいろ聞かせてもらい、J19にいずれ論文を載せたい身としては有益な情報を得ることができました。非常に審査が厳しい雑誌なので、編集者が出版の可能性を見出してくれないとそもそも査読に回らないし、Revise & Resubmitになる(その結果落ちるにしても)のはもっと価値がある証拠、とわかって励まされたところがあります。アメリカの雑誌では、投稿してもそもそも査読にすら回してもらえないdesk rejectionになる、というのはよくあることです。

最後にこれは学会とは直接関係ありませんが、シンシナティという土地に行けたのは非常に良かったです。アボリショニズムの震源地であり、地下鉄道のハブだった場に身を置くだけで、『アンクル・トムの小屋』の世界をよりリアルに感じられた気がします。

学会参加の隙間時間にはHarriet Beecher Stowe Houseに行ってツアーに参加し、


National Underground Railroad Freedom Centerに行って奴隷制にまつわる展示を見学し、


オハイオ河対岸に見えるケンタッキー州を見ながら、イライザ・ハリスの有名な一場面に思いを馳せたりしました。


そういえば肝心の私の発表ですが、「バートルビー移民」説は(説得力は別として)聴衆に面白がってもらえたようです。何人かの方からポジティブな感想を聞くことができました。この論は、いずれ出すことになるだろう単著に収録予定。

元指導教員のBen Reiss先生と二人でじっくり話す機会があり、学会発表の内容だけでなく、現在のアサイラム単著プロジェクトについてもアイディアを話し、いろんなアドバイスももらえてよかったです。彼の元指導学生たち5名で彼を囲むエモリー同窓会もやったりと、個人的に感慨深い学会出張となりました。今後もできれば継続的にC19に参加していきたいと思います。

C19体験記

C19で学会発表をしてきました。C19は初めての学会参加だったのですが、非常にいい経験ができました。自分にとっての備忘録も兼ねて、少し雑感を記しておきます。 学会会場のHyatt Regency。アメリカの学会は大学でやることもありますが、大きな学会はホテルのフロアを貸し切ってや...