2022年9月28日水曜日

日本アメリカ文学会のシンポジアムに登壇します

 来月、10月8日から9日にかけて専修大学神田キャンパスで日本アメリカ文学会全国大会が開催されますが、私は9日のシンポジアムに司会兼講師として登壇します。大会全体の詳細はこちらからご覧になれます。

シンポのタイトル・登壇者・要旨は以下の通りです。ご興味があれば是非ご参加ください。


トランスベラム文学の可能性――19世紀アメリカ文学史を再考する

司会・講師:古井義昭(立教大学)

講師:若林麻希子(青山学院大学)

講師:生駒久美(東京都立大学)

講師:水野尚之(京都大学名誉教授)

 従来の19世紀アメリカ文学史は、南北戦争以前/以後、つまりアンテベラム期/ポストベラム期という区分に基づいて構築されてきた。主に「正典」をめぐる論争を通じてアメリカ文学史はこれまで幾度となく変化を遂げてきたが、この時代区分は現在に至るまで強固なものとして機能し続けている。たとえばアメリカ文学の代表的なアンソロジー(The Norton Anthology、The Heath Anthology等)を一瞥すればわかるように、版を重ねるごとに作家の選択は変化しながらも、「1865年」が巻数を区切る歴史的指標となっていることに長らく変わりはない。

 こうした南北戦争以前/以後という区分はそのまま、「アンテベラム期=ロマン主義」、そして「ポストベラム期=リアリズム」という便利な文学史的見取り図を提供してきた。しかし近年、この区分に基づいた文学史観を再考する機運が高まってきている。なかでもCody Marrsは、Nineteenth-Century American Literature and the Long Civil War (2015)において「トランスベラム(transbellum)」という概念を導入することで、南北戦争を1865年に終わったものとするのではなく、その影響は戦後も長く続いていったとして、「長い19世紀」ならぬ「長い南北戦争(the long Civil War)」と呼んでいる。はたして、19世紀アメリカ文学史を南北戦争以前/以後に分けることにどれだけの妥当性があるのか。Marrsはこのように問いかけながら、文学史における従来の時代区分(periodization)に疑問を呈し、文学史の再編成(reperiodization)を呼びかけている。

 トランスベラム文学という視座は、文学史に関わるいくつかの新しい問いを誘う。たとえば、南北戦争以前から以後にかけて執筆を続けた作家たちを、主に南北戦争前の作家(あるいは「アメリカン・ルネサンス」の作家)として認識することは妥当なのか。また、ロマン主義とリアリズム文学のあいだに挟まれた時期に活動した作家たちを、文学史においてどう位置付ければいいのか。さらに、南北戦争以前から執筆活動を始めていながらも文学史上ではポストベラム期と紐づけられている作家たちは、はたして南北戦争「後」の作家と呼びうるのか。

 このような文学史再考の動きはまだ端緒についたばかりである。そこで本シンポジウムは、トランスベラム文学という新たな概念を参照点としながら19世紀アメリカ文学史を再考することを目的とする。Marrsの企図を実践そして拡張すべく、彼が取り上げている作家(Herman Melville)に加え、取り上げていない作家たち(Harriet Beecher Stowe, Mark Twain, Henry James)にも焦点を当てることで、トランスベラム文学の可能性を探りたい。


『週間読書人』で拙著が取り上げられました

12月20日刊行『週間読書人』の「2024年回顧--収獲動向」という特集で、拙著『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』が取り上げられました。評者は福岡女子大学の長岡真吾先生です。 「海外学術誌に掲載された論文を日本語にしてまとめた精緻な労作」と紹介してくださっています。ありがとう...