論集 『メルヴィルの黙示――『ピェール』を中核として』(小鳥遊書房)の見本が届きました。
メルヴィルの奇書『ピェール』だけを論じた論集で、これ自体が奇書と言えそうです(両方ともいい意味で言っています)。収められた論文はなんと22本。出版社による情報はこちらから:https://www.tkns-shobou.co.jp/books/view/821。
メルヴィル作品のなかで『ピェール』が一番好きかもしれません。そういうメルヴィル研究者はけっこう多いような気がします。特に20代くらいの時は、若い主人公ピエールが筆で生活を成り立たせようと奮闘する姿に自分を重ね合わせていました。結局、ピエールは破滅してしまうので、自分も破滅するのか・・・という絶望も感じていたのですが。
私は以下の論文を寄稿しています。
古井義昭「アサイラム、あるいはアナクロニズム――『ピェール』における他者の居場所」(pp. 211-28)
今週末のメルヴィル学会でこの論文に関して解説を行うのですが、そのトーク用に作ったレジュメに要約を載せるつもりで、その要約を以下にも貼り付けておきます。
要約
本論は「人類のアサイラム(避難所)」というアメリカの理念を念頭に、『ピェール』を移民小説として読む試みである。
アメリカは迫害された者(主に移民)の避難所という建国理念を掲げる一方で、建国当初から現在に至るまで移民排除を続けてきた。本論で特に強調するのは、十九世紀中葉に「アサイラム」の概念が、移民の大量流入にあわせて「避難所」としての性格を強める同時に、精神病院や刑務所などの「公的収容施設」を意味するようになった点である。つまり、同じ概念に他者の包摂と排除が含意されることになった。
作中で主人公ピエールは、建国期の父祖の理念を時代錯誤的に反復し、社会の周縁に追いやられたイザベル、デリーら移民とおぼしき人物たちに私的な避難所を提供しようと試みる。しかし都市の排外主義や貧困の中でアサイラムを構築することに失敗し、最終的に刑務所という収容施設/アサイラムで死を迎える。
メルヴィルは『白鯨』『ピェール』「バートルビー」という一連の作品を通じ、「アサイラムとしてのアメリカ」という理念の破壊を繰り返し描いている。しかし、存在しないものは破壊しえない。メルヴィルは繰り返し理念の破壊を描くことで、他者を包摂するアサイラムという理想を確認しつつ、その成就への微かな希望を記していると結論する。