2021年12月31日金曜日

2021年の仕事

 2021年が終わるので、備忘録的に今年の仕事の振り返りをします。

論文

"Against the Assaults of Time: Uncertain Futurity in 'The Encantadas.'" Leviathan, vol. 23, no. 3, 2021, pp. 73-85. 【査読有】

"Introduction: Japanizing C19 American Literary Studies." J19: The Journal of Nineteenth-Century Americanists, vol. 9, no. 2, 2021, pp. 415-22.【査読有】

共著

『脱領域・脱構築・脱半球: 二一世紀人文学のために』小鳥遊書房、2021年(第二章「アサイラム・ファミリー :『七破風の屋敷』における家族・国家・未来」を担当)

『深まりゆくアメリカ文学ーー源流と展開』ミネルヴァ書房、2021年(「チャールズ・ブロックデン・ブラウン『ウィーランド』」、「ハーマン・メルヴィル『白鯨』」「ハーマン・メルヴィル「書記バートルビー」」を担当)

学会発表

「部会Bアメリカン・ファミリー:多様な家族のすがた」2021年6月6日、司会を担当

思い出す範囲ではこのようなところです。査読論文は一年に一本は頑張って出したいところでもあるのですが、でも出しすぎるのは自己模倣に陥る危険があるので難しいところです。

また、今年は日本語での仕事も発表できたのがよかったと思います。日本語論文を出すのは2016年に出した共著『モンロー・ドクトリンの半球分割』以来です。日英両方の言語でバランスよく仕事をしていきたいと思っていますので、今年はいいバランスで仕事ができたように思います。

来年に関して、出版が決まっているものとしてはメルヴィルに関する英語査読論文が2本(一つはアメリカ、もう一つは日本のジャーナル)、書評一本(日本の学会誌)があります。

今年の振り返りといっても、要するに1、2年前に頑張っていた仕事がようやく出る、というのがアカデミックな世界の時間感覚なので、実は「今年出たもの=今年頑張ったもの」ではありません。今年頑張ったこととしては、Israel Potterに関する英語論文を書き、珍しくすんなりとアメリカのジャーナルにアクセプトされたことです。また、メルヴィル単著計画の下準備として、これまで書いた英語論文をざっと日本語に訳し直しました。

さらに今年は、2019年に出版した拙著Modernizing Solitudeに関する書評が英語圏でようやくいくつか出版され、ひととおり書評が出尽くした感があります。本を出すということは、出版するまで5年、出版したあと2年くらいでワンセットなのだな、と実感しました。これで次の仕事に頭を切り替えられます。

来年は後期から1年間のサバティカルで、アメリカに滞在する予定です。もう一度アメリカで自分を鍛え直してきます。

J19最新号に日本特集が掲載されました

 19世紀アメリカ文学分野を代表するジャーナル、J19: The Journal of Nineteenth-Century Americanistshttps://j19.pennpress.org/home/)の最新号に、日本の19世紀アメリカ文学研究を紹介する特集が掲載されました。

この企画は私が編集サイドに持ち込んだもので、"Japanizing C19 American Literary Studies"と題しています。私がイントロを執筆し、巽孝之先生、石原剛先生、鵜野ひろ子先生、高橋勤先生(掲載順)にご寄稿をお願いし、それぞれのご専門に沿って、日本における19世紀アメリカ文学研究をご紹介いただきました。

この企画では、日本の研究を紹介するだけでなく、日本人がアメリカ文学を研究する意義について考えることも意図しています。

最新号はどうやらアメリカ国内では紙媒体では届き始めているようですが(日本に届くのはまだ先でしょう)、Project Muse上で公開されるのはまだもう少しかかるとのこと。ゲラは見ているのですが、早く公開されるのが待ち遠しいです。

この企画の刊行記念として、1月29日(土)の13時からZoomを用いたワークショップを開催予定です。また詳細が決まり次第、各所で宣伝します。

2021年12月16日木曜日

Israel Potter論の掲載が決まりました

Herman Melville, Israel Potterに関する論文の掲載が決まりました。Texas Studies in Literature and Language (TSLL)という雑誌です:https://utpress.utexas.edu/journals/texas-studies-in-literature-and-language.

2022年6月に出版予定です。タイトルは、"Transnational Intimacy in Israel Potter"というものです。

徹底的に作品論となっている論文なのですが、今のアメリカではそういう論文を掲載してくれるところが限られています。そこで、このTSLLは中堅誌としての知名度もありながら、作品論を評価してくれる媒体として信用しています。そういう意味で、日本人研究者とも相性がいいのでは、と思っています。

TSLLに掲載されるのは2回目になります。1回目は、Waldenを載せた2016年でした。本当はあまり同じ媒体に載せないほうがいいのですが、論文とジャーナルの適性を考えて同じところに投稿したという事情です。今後は作品論を離れて、よりスコープの広い論文を書こうと思って、今は自己改造中です。

本論文は現在執筆中のメルヴィル単著に組み込まれる予定で、本の原稿となる論文が揃ってきました。あとはBilly Budd論をどこかに載せたいのですが、ここ3年ほどあちこちのジャーナルに投稿しては落とされ、を続けています。けっこう気に入っている論文なので落とされるのは不満なのですが、なかなか厳しいです。

いずれにせよ、単著のベースとなる論文はほぼ揃ってきたので、いよいよ本格的に執筆作業(日本語にして、全体を統一する)に取り組んでいるところです。





2021年10月29日金曜日

"The Encantadas"論がLeviathan誌に掲載されました

 メルヴィルの"The Encantadas"を論じた拙論が、Leviathan: A Journal of Melville Studiesに掲載されました。書誌情報は以下の通りです:

Furui, Yoshiaki. "Against the Assaults of Time: Uncertain Futurity in 'The Encantadas.'" Leviathan: A Journal of Melville Studies, vol. 23, no. 3, 2021, pp. 73-88. 

論文URL: https://muse.jhu.edu/article/825564

この号は、2018年にニューヨークで開催された国際メルヴィル学会において、私が参加したパネルが出発点となっており、Spanish America特集号になっています。私は"The Encantadas"におけるスパニッシュ・アメリカをめぐる時間と歴史の問題に焦点を当てて論じています。

基本的には、発表時の原稿の内容が元にはなっているのですが、論文化する上では気の遠くなるようなプロセスがありました。

特集号を組むということで寄稿依頼があったわけですが、依頼があったからといって簡単に掲載されるということではなく、この特集号のゲスト・エディターであるEmilio Irigoyen氏とNick Spengler氏から草稿に対して徹底的な改稿要求がありました。二人で100個以上のコメントをつけてもらった(つけられた)ファイルを開いたときは、膨大なコメント量に頭がクラクラしました。お二人ともSpanish America表象を専門にしているので、微に入り細に入り、本当に細かいところの正確性をつめてくれて、研究者としてのプロフェッショナリズムを感じました。二人の献身的なコメントがなければ、とても掲載可能なレベルには到達しえなかったと思います。

ゲストエディターのOKが出たところでようやく終わりかと思ったら、今度はジャーナル側の二名による匿名査読もあり、思わず心が折れそうになりましたが、このようにようやく形になってよかったです。

あと、今回の経験を含めて痛感したのは、アメリカにおいては「依頼があったから自動的に掲載が保証されることはない」、という点です。前にも、違うアメリカのジャーナルから依頼があり、喜んで書いたものの掲載を断られたという苦い経験があり、日本の文化とは違うなと感じました。まったく油断なりません。

ほとんど苦労話のようになっていますが、改めてLeviathanは質を担保するための査読制度が徹底しているな、と改めて感じ入りました。私が初めてこの雑誌に掲載されたのは2013年のThe Confidence-Man論でしたが、その際も本当に鋭い査読コメントをもらいました。その時に徹底的に改稿した経験が、自分にとって、研究者になる上での本当に大きなターニング・ポイントとなりました。学術論文とは、ここまで厳密に書かねばならないのか、と叩き込まれた経験でした。Leviathanに掲載されるのは今回で三度目ですが、自分を育ててくれたジャーナルとして非常に感謝しています。

今号は豪華な寄稿者たち(Anna Brickhouse, Rodrigo Lazo氏ら)が論考を寄せており、読み応えのある号になっています。ご興味があればぜひお読みください。



2021年10月1日金曜日

『脱領域・脱構築・脱半球: 二一世紀人文学のために』が刊行されました

 巽孝之先生のご退職記念論集、『脱領域・脱構築・脱半球: 二一世紀人文学のために』(小鳥遊書房)が刊行されました。

版元サイト:https://www.tkns-shobou.co.jp/books/view/369

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4909812709/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_H1KZCSZ6ESDH06SH3H2N

総勢五十名の寄稿者が集った大著ですが、私は第二章「アサイラム・ファミリー:『七破風の屋敷』における家族・国家・未来」という論考を寄せています。

私は現在、メルヴィルの単著執筆に取り組みつつ、次のプロジェクトとして「家族」をテーマとして考えており、今回の論考はその出発点となるものです。

最初の単著では孤独がテーマでしたが、現在は、孤独を抱えた人たちが生き延びる手段として家族を形成するという過程に興味があり、前著の問題意識を発展させる形でアメリカの家族像を検討しています。

著名な執筆者たちが一堂に集った、豪華絢爛な一冊となっています。ぜひお手に取ってみてください。



2021年9月23日木曜日

American Literary Scholarshipで拙著が取り上げられました

 年に一度、Duke University Pressから刊行されているAmerican Literary Scholarship最新号で、拙著の"Bartleby"論が取り上げられました。評者はピューリッツァー賞受賞者としても知られるJohn Matteson氏です:

Matteson, John. "Melville." American Literary Scholarship, 2019, pp. 33-51. https://muse.jhu.edu/journal/9

以下、一部を引用します:

Yoshiaki Furui adds significantly to our understanding of “Bartleby” with the superb “Solitude in the Postal Age and Beyond: Melville’s Dead Letters” in his collection Modernizing Solitude: The Networked Individual in Nineteenth-Century American Literature (Alabama). Furui starts with what appears to be a narrow focus—Melville’s brief addendum referring to Bartleby’s erstwhile employment at the Dead Letter Office in Washington—and expands it into a long and fruitful discourse on the history of that office and its position both in the antebellum economy and in social relations.

「バートルビー」の理解に貢献をした、と言っていただけたのは大変嬉しいです。このように書いてもらえると、やはり英語圏で出した甲斐があったと思えます。

2021年8月19日木曜日

The Year's Work in English Studies誌で拙著が書評されました

Oxford University Pressから刊行されているThe Year's Work in English Studies誌で拙著Modernizing Solitudeが書評されました。

これは最新の研究動向を紹介することに特化したジャーナルで、今号で99号と長い歴史があります。本誌に取り上げてもらったのは大変な光栄です。

McGettingan, Katie, and Rebecca White. "American Literature to 1900." The Year's Work in English Studies, 2021, p. 10. 

https://doi.org/10.1093/ywes/maab015

https://academic.oup.com/ywes/advance-article/doi/10.1093/ywes/maab015/6352272?searchresult=1

一部を引用すると、"Curiously prescient of 2020’s own ‘networked solitude’ of lockdowns and Zoom calls, Furui’s study expands the still lively critical interrogation of connections between literature and media technologies in America before 1900"と書いてもらいました。

今年になって英語圏での書評が一気に出始め、これで計4誌に取り上げてもらったことになります。出版から2年半が経った時点で書評されるのは不思議な感じですが、英語圏ではこれくらいのタイムスパンは珍しくないのだろうと思います。本の元となる原稿を書き始め、出版にこぎつけ、そして書評が出始めるまで7, 8年かかるとすると、一冊の本を書くのは10年がかりのプロジェクトなのだと再認識させられます。

英語圏で書評が出ないころは、あんなに苦労してアメリカで出したのになあ、と、もうこれ以上は英語圏での出版は経験したくないと思っていたのですが(査読通過があまりに大変なので)、このようにちゃんと反応が出始めると、もう一度やってもいいかな、という気になります。とはいえ、次は日本語のメルヴィル本を出すのが目標なので、当面はそちらに注力し、それが終わってから次のプロジェクトを考えたいと思います。

2021年7月27日火曜日

American Literature誌で拙著が書評されました

American Literature最新号で、拙著Modernizing Solitudeが長文書評欄で取り上げられました:

Colatrella, Carol. American Literature, vol. 93, no. 3, 2021, pp. 525-28. 

本書で私は、日米の方法論を架橋しようとしたので、日本だけでなくアメリカでも認知されることを望んでいました。日本では幸運なことに多くの方が書評してくださいましたが、これまでアメリカであまり取り上げられることがなかったのを残念に思っていたところ、ようやくアメリカでも書評が出始めました。アメリカの大学出版局から出版しなければこのように取り上げられることはありえなかったので、苦労して出した甲斐がありました。

American Literatureの書評欄はいつも読んでいる側で、いつか載る側に回ってみたいと思っていたので、念願が叶った気持ちです。これでアメリカでの書評は、Leviathan: A Journal of Melville Studies, Nineteenth-Century Prose、そして今回のAmerican Literatureと3本出たことになります。アメリカの書評は出版されてから2、3年かかる場合もあるので、これからもう少し出るかもしれません。

書評は自分の本の存在を認識してくれるものですから、こうやって日米の多くの方に取り上げてくださり、本当にありがたく思います。

2021年7月21日水曜日

Modernizing Solitude書評

単著Modernizing Solitude刊行から二年以上が過ぎ、ありがたいことに書評していただくことが増えてきました。以下にその情報をまとめておきます。

【日本語】
*斎木郁乃『アメリカ学会会報』、no. 204、2020年、p. 4。 
*巽孝之「アメリカ小説と批評の研究」『英語年鑑2020』研究社、2020年、p. 13。
*橋本安央『アメリカ文学研究』第57号、2021年、pp. 8-14。
*髙尾直知『アメリカ研究』第55号、2021年、pp. 195-200。
*貞廣真紀『立教アメリカン・スタディーズ』2021年、pp. 99-103. 

【英語】
*Cook, Jonathan A. Leviathan: A Journal of Melville Studies, vol. 22, no. 1, 2020, pp. 111-15. 
https://muse.jhu.edu/article/750717
*Morooka, Yuma. The Rikkyo Review, no. 80, 2020, pp. 69-72.
*Furuya, Kohei. Sky-Hawk: The Journal of the Melville Society of Japan, no. 7, 2020, pp. 101-06.
*Sak, Alexandar Taras. Studies in English Literature, no. 62, 2021, pp. 63-68.
*Hay, John. Nineteenth-Century Prose, vol. 48, no. 1/2, 2021, pp. 218-22. 
*Colatrella, Carol. American Literature, vol. 93, no. 3, 2021, pp. 525-28. 
*McGettingan, Katie, and Rebecca White. "American Literature to 1900." The Year's Work in English Studies, 2021, p. 10. 
Matteson, John. "Melville." American Literary Scholarship, 2019, pp. 33-51. 

2021年3月23日火曜日

『深まりゆくアメリカ文学ーー源流と展開』が出版されました

本日から、竹内理矢・山本洋平編『深まりゆくアメリカ文学−−源流と展開』(ミネルヴァ書房)の発売が始まりました。アメリカ文学の教科書です。

出版社HP: https://www.minervashobo.co.jp/book/b557650.html

Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4623090779/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_0B7Z9ANH75Q9HTKFRGVK

数十人のアメリカ文学研究者が寄稿しており、私も三つほど項目を執筆させていただいています。チャールズ・ブロックデン・ブラウン『ウィーランド』、ハーマン・メルヴィル『白鯨』、「書記バートルビー」について書いています。

作家紹介や作品紹介だけでなく、アメリカ文学史の重要なトピックの説明もふんだんに盛り込まれており、まさに包括的な教科書になっています。

私のような専門家も勉強になる情報がたくさん書いてあり、研究者でも読みごたえ十分です。もちろん、基本は大学一年生でもわかるような平易な書かれ方で統一されています。

ぜひ多くの方々にお手にとっていただきたいと思います。

2021年1月21日木曜日

公開研究会のお知らせ

下記の通り、立教大学アメリカ研究所主催の公開研究会「2020年度アメリカ学会清水博賞受賞記念研究会」が開催されます。受賞者の一人として私も登壇します。

どなたも参加可能ですので、ご興味がある方は気軽にご参加ください。要申し込みです。

日時:
2021年1月31日(日)、14:00-17:00

場所:
オンライン(Zoomウェビナー)

詳細:

今年度のアメリカ学会清水博賞受賞者が対談形式で受賞作について論じる。第1部では古井義昭氏と貞廣真紀氏が古井氏の受賞作Modernizing Solitude: The Networked Individual in Nineteenth-Century American Literature (University of Alabama Press, 2019)に関する討論及び質疑応答を行ない、第2部では久野愛氏とGreg de St. Maurice 氏が久野氏の受賞作Visualizing Taste: How Business Changed the Look of What You Eat (Harvard University Press, 2019)について討論及び質疑応答を行なう。

申し込み:

イベントウェブサイト:



『週間読書人』で拙著が取り上げられました

12月20日刊行『週間読書人』の「2024年回顧--収獲動向」という特集で、拙著『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』が取り上げられました。評者は福岡女子大学の長岡真吾先生です。 「海外学術誌に掲載された論文を日本語にしてまとめた精緻な労作」と紹介してくださっています。ありがとう...