阿部幸大さんの新著『ナラティヴの被害学』(文学通信)が手元に届きました。画像のとおり、この本に私が推薦文(blurb)を寄せています。
面白いのが、帯を外しても推薦文が表紙にそのまま印刷されていることです。これはアメリカの学術書を意識したもので、向こうの研究書も通例、表紙にそのまま推薦文が印刷されています。こうしたデザインからも、アメリカ的な文化を日本の出版文化に接合しようとする阿部さんの意図が見えます。
200字という文字制限のため、この本の良さはとてもこの推薦文に書ききれませんでしたが、アメリカ文学研究に関わる人たちには本書をぜひ読んでもらいたいと思います。阿部さんは「もう文学研究はやらない」というようなことを(たしか)X上で言っていた記憶がありますが、そういう発言に惑わされてはいけません。本書はすぐれた文学研究のモデルとなっていますし、私からすれば阿部さんはかなり「文学している」人に思えます。
ここで私が言う「文学している」というのは、文学テスクトを精読する姿勢のみならず、文学を読解する際にある感情的強度をもって特定のテーマに固執している、ということを指します。研究の背景に、ごく私的で個人的な論者の姿が透けて見えるということです。
私は特に、本書の大きなテーマでもある「部外者」に着目しているのがいいなと思いました。阿部さんは、ある事象に当事者として直接的に関わることができず、当事者性から疎外された孤独な個人の存在に光を当てています。周縁化されて批評に等閑視されてきた人物に注ぐまなざしが、本書を単なる知的な議論以上のものにたらしめていると感じました。まあ、こんな感想を抱くのは私くらいかもしれません。
文学研究に携わる人には必読の一冊です。