2025年8月9日土曜日

ローレン・バーラント『残酷な楽観性』刊行

ローレン・バーラント『残酷な楽観性』(岸まどか・ハーン小路恭子訳、花伝社)が近日中に刊行されます:https://www.kadensha.net/book/b10143590.html

このたび、訳者のお二方からご恵贈いただきました。ソフトカバーで、手に持った質感もよい感じです。原著を引き継いだカバーも非常に印象的です。


訳者の岸さんは大学院の同期で友人、ハーン小路さんは大学院の先輩と、縁深い方々のお仕事になります。

ハーン小路さんはすでに各方面・各種媒体でご活躍中なのでご存じの方も多いと思いますが、岸さんはアメリカにご在住なので、まだ知る人ぞ知る、という存在かもしれません。超優秀な研究者であり、理論の卓越した翻訳家でもある岸さんのお仕事をもっと多くの方に知ってもらいたいと勝手ながら思っています。以前もこのブログで、彼女の単著を紹介しました:https://yoshiakifurui.blogspot.com/2024/12/blog-post.html

バーラントの原著は私も読んだことがありますが、原著の出版は2011年と少し時間が空いているものの、希望を持つことがますます難しくなっている現代において、今こそ読まれるべき超重要文献です。これが日本語で読めるようになったのは非常に大きな意味があります。英語が難しいので、訳すのは大変だったろうなあ・・・と訳者の苦労が偲ばれます、ほんと。

私にとってバーラントといえば、ホーソーンを論じたThe Anatomy of National Fantasy: Hawthorne, Utopia, and Everyday Lifeを想起します。これもアメリカ文学研究では必読文献。他にも何冊も単著がありますが、『残酷な楽観性』がバーラントの著作の初めての翻訳とのこと。重要性のわりに意外ですが、原著が難しいので訳者が手を出しづらかったのでは・・・という気もします。

『残酷な楽観性』には充実した訳者解説もついており、バーラントを卓抜な訳文で読める贅沢な本です。興味がある方はぜひ。

2025年6月22日日曜日

国際メルヴィル学会に参加してきました

コネチカット大学で開催された国際メルヴィル学会に参加してきました。

会場となったUniversity of Connecticut, Avery Pointは海沿いのキャンパスで、今回の学会のテーマである"Oceanic Melville"にふさわしい会場でした。

自分の発表では『白鯨』における日本表象についての考察を行いました。こちらの論文バージョンは来年海外で出版の共著に収録予定。


また、"Global Imaginings"と題されたパネルでは司会を担当。登壇者のEmilio Irigoyen、Nick Spenglerとは久しぶりの再会で、たくさん話ができてよかったです。特にNickの発表は私が今やっているアサイラムの研究と共鳴するところが多々あり、今回聞いた発表の中で一番興奮しました。今後の研究の展望が開ける思いがしました。

他にも、バークレーでお世話になったSam Otter先生と再会したり、私の論文を読んだと言って感想を伝えてくれる方もいたり、私が論文を読んで感銘を受けた著者と直接話ができたり、さまざまなメルヴィル研究者たちと交流ができました。もとが社交的な人間ではないので、社交、社交の連続で疲れはしましたが、いろんな人脈を築けた貴重な機会となったのは間違いありません。

また、一緒にパネルを企画したPaul Hurhさんと数人でディナーをご一緒した際には、アメリカでの出版事情について話を聞くことができ、アメリカのUPから単著を出す、という私の現在のプロジェクトについてもやる気をもらいました。

それにしても、今回は(今回も)日本人研究者の参加が非常に目立ち、12、3名は発表していたはずです。アメリカの研究者たちからは、「なんで日本ではメルヴィル研究がこんなに盛んなんだ?」と何度も聞かれましたが、うーん、謎です。

2025年6月13日金曜日

国際メルヴィル学会に参加してきます

来週からアメリカのコネティカット大学で開催される第14回国際メルヴィル学会に参加してきます。

国際メルヴィル学会に参加するのは、2015年の日本開催大会、2019年のNY開催大会、2022年のパリ開催大会に続いて4回目です。毎回、世界中から多くのメルヴィル研究者が集い、メルヴィル研究の熱を感じられる貴重な機会です。また毎回のことですが、メルヴィル研究では日本の研究者のプレゼンスが目立ち、今回も10人以上の日本人研究者が発表をします。

私は発表と司会をそれぞれ一回担当します。発表に関しては以下の"Pacific Alterities"というパネルに参加します。

このパネルは、同じ登壇者のPaul Hurhさん(アリゾナ大学)と私で企画したものです。海外で発表はたくさんしてきましたが、パネルを企画したのは今回が初めてでした。Hurhさんには以前、私が企画したイベントに参加していただいた経緯があったり、私が彼の著書American Terror: The Feeling of Thinking in Edwards, Poe, and Melville (Stanford UP, 2015)を書評したこともあったりと、いろいろな縁が繋がって今回の企画に至りました。さらには彼の大学院時代の指導教員はSamuel Otterで、Samは私がカリフォルニア大学バークレー校で研究員をしていた頃の受け入れ教員でもあり、研究の世界というのはまさにsuch a small worldです。

また、私の発表内容はこれまでの研究者人生で初めての日本を絡めた内容となっています。来年に出版予定の海外から出る共著用に書いた原稿をもとに、『白鯨』における日本の他者性というテーマで発表します。

あともう一つ、司会を務めるパネルは以下のとおり:


登壇者のEmilioとNicholasは、以前Leviathanの特集号"Melville and Spanish America"で一緒に仕事をしたことがあり、そういう縁で司会の仕事が回ってきました。

こうしてみると、私もそこそこ長く研究していることもあって、それなりに海外の研究者とも関係性を構築してきたのだなと思います。今回の学会参加を通じて、さらに世界の研究者たちといい交流ができればと期待しています。

2025年6月3日火曜日

中原伸之賞を受賞しました

このたび、拙著『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』(法政大学出版局、2024年)に対して、アメリカ学会より第6回中原伸之賞が授与されましました。つい先日、5月31日に北海道大学で開催されたアメリカ学会大会にて、授賞式に参加してきたところです:https://www.jaas.gr.jp/archives/2332

中原伸之賞とはどのような賞かというと、学会による説明を引くと以下の通りです:「この賞は、本学会員の第2作以降の単著(年齢制限なし)ないしは本学会員の最初の単著(この場合のみ出版時50歳以上であること)のなかから、日本、アメリカ、あるいは世界のアメリカ研究の水準を高めることに貢献できる、深い知見と新しい視座を提供する特に優れた研究書に、賞状と賞金5万円を贈るものです。」(https://www.jaas.gr.jp/nakahara-prize-html.html

まずは、審査をご担当いただいた委員の先生方、そして(どなたか分かりませんが)外部査読を行ってくださった先生方に深く御礼申し上げます。一冊の本を読んで評価を下すというのは非常に大きな労力がかかる作業であり、労を割いてくださったご献身に頭が下がる思いです。ありがとうございました。

また、本書は元来、狭義のメルヴィル研究という専門の枠の外へメルヴィル作品を開くために書いた本です。アメリカ文学研究書を出版したことがない法政大学出版局から出版したこともその狙いの一環でした。内容に関しても、隣接した分野の知見を取り入れた学際的なアプローチになっており、まさに分野横断的な学術組織であるアメリカ学会にこのたび顕彰いただいたというのは、専門外の方に私の仕事を認めていただいた、ということかと思います。その意味で、当初の私の目的が達成されたように感じており、非常に嬉しいです。

大学のHPにも情報がアップされました。こちらでも受賞のコメントを寄せています:https://www.rikkyo.ac.jp/news/2025/06/mknpps0000038b6x.html

これを機に、さらに多くの読者に本書を手に取っていただき、メルヴィル文学の面白さを伝えられればと願っています。

阿部幸大さんの選書フェア

新著『被害学のナラティブ』が話題の阿部幸大さんですが、東大本郷の書籍部で、「文章が上手くなるための本らしからぬ、文章が上手くなるための20冊」という阿部さんによる選書フェアが開催中です:https://x.com/toudaihbookcoop/status/1929752977281331452

この選書20冊のうち、拙著『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』を取り上げてくださっています。以下のような推薦文をおよせいただきました。

ここに阿部さんが書いてらっしゃるとおり、阿部さんや私のような研究者を「過去のものにする」若い方々がこれから現れてこそ、人文学業界の発展といえると思います。

早いもので、拙著の刊行から一年以上が経ちました。もっと多くの読者に恵まれることを願っています。阿部さん、ご紹介をありがとうございました。

2025年5月29日木曜日

共著が出版されます

5/30に出版予定の共著が手元に届きました。髙尾直知・伊藤詔子・辻祥子・野崎直之編著『病と障害のアメリカンルネサンス:疫病、ディサビリティ、レジリエンス』(小鳥遊書房、2025年)という本です。出版社の情報はこちらから:https://www.tkns-shobou.co.jp/books/view/705

私は第8章「痛みをまなざす:ディキンソンの脱制度的想像力」(pp. 171-94)という論文を寄稿しています。エミリー・ディキンソンの詩における「痛み」を、近年注目が集まっている医療人文学(medical humanities)という批評的潮流のなかに位置付けながら論じました。ディキンソンについて論じるのは、最初の単著Modernizing Solitude (2019)で論じて以来、かなり久しぶりでした。論の出来は読者に判断してもらうしかないですが、楽しく書くことができました。

ご興味のある方はぜひ手に取っていただければと思います。


2025年5月20日火曜日

『誘惑する他者』書評

アメリカ学会発行の『会報』第217号の新刊紹介欄にて、『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』が取り上げられました(p. 16)。評者は鈴木一生先生です。オンラインでも公開されています:https://www.jaas.gr.jp/wp23/wp-content/uploads/2025/05/%E4%BC%9A%E5%A0%B1217.pdf

短い書評ではありますが、限られた紙幅の中で、本書で私が強調したかったポイントを掬い上げてくださいました。「倫理の一般性を振りかざすのではなく、あくまで作品側から抽出される倫理の個別性や流動性にこだわる古井氏の姿勢は、多くの文学研究者を勇気づけてくれる」と書いてくださいましたが、この評に私自身が勇気づけられました。

一般論を導くのではなく、あくまで作品読解を通じて個別具体性を提示することが文学研究者の仕事であると再認識した次第です。ありがとうございました。




ローレン・バーラント『残酷な楽観性』刊行

ローレン・バーラント『残酷な楽観性』(岸まどか・ハーン小路恭子訳、花伝社)が近日中に刊行されます: https://www.kadensha.net/book/b10143590.html 。 このたび、訳者のお二方からご恵贈いただきました。ソフトカバーで、手に持った質感もよい感...