公開からずいぶん時間が経ってしまいましたが、筑波大学の阿部幸大さんがブログで「古井義昭『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』の取扱説明書」というタイトルの書評を書いてくださいました:https://abc-kd.hatenablog.com/entry/2024/03/09/164548。
阿部さんは大学院の後輩ですが、教室で一緒になったことはなく、連絡を取るようになったのは、私がアメリカの博士課程に留学していたころだったと思います。実際にお会いしたのは、メールでやり取りを始めてからだいぶ先のことです。
私はもともと海外発信志向で、なんとか英語圏で頑張ろうとしていたものの、あまり周りに「同志」といえる人がいない状態でした。そんななか、阿部さんは私の方向性に共感してくれて、頻繁にやり取りをするようになりました。いまでは彼はアメリカ文学のトップジャーナルに論文を掲載するようになり、気づいたら私の先に行ってしまいました:
冒頭で紹介した書評は、私の本を「内容」ではなく「論文執筆のテクニック」という観点から評した非常にユニークなものになっています。彼とは文学研究に対する姿勢においては異なる点があるものの、私が各章のイントロでやろうとしていることを正確に言語化してくださっています。
阿部さんとこれまでよく話してきたのは、論文というのはテクニックさえ習得すれば、ある程度以上のものは書けるようになるはず、というものです。阿部さんも私も超放任主義のところで育ったので、無手勝流で論文の書き方を構築していったわけですが、そういうテクニックは教えることが可能なので、それは一部の人の秘教的なものではなく、あまねく共有されるべきだと以前から二人で話し合っていました。私自身、早い段階でそういうテクニックを誰かに教えてもらえていれば、もっと早くから結果を出せたのに、と思います。
阿部さんはその論文執筆のテクニックをまとめたアカデミック・ライティング本を出版予定とのことで、それによって論文執筆という行為が脱神秘化されることを期待します。論文を書くというのは、「頭がいい」、「センスのいい」一部の人たちにのみ可能なものではないはずです。私はすでに草稿を読ませていただきましたが、膝を打つ内容ばかりでした。乞うご期待。