2023年3月25日土曜日

アメリカのジャーナルへの論文投稿

アメリカのジャーナルに論文掲載をする日本人研究者は、近年かなり増えてきた印象です。また、潜在的に興味を持っている方も多いのではないかと想像します。でも、日本の学会誌とどう違うの?と疑問に思われるのではないでしょうか。

先日、J19という雑誌の編集長たち(2名います)が、論文を受理してから掲載に至るまでのプロセス、さらにはどういう論文が掲載されやすいかなどについて、院生相手に話すオンライン・イベントがありました。その際の動画がオンラインで公開されています:https://www.g19collective.org/g19-working-groups/j19-g19-march-discussion

J19は、私も以前「日本におけるアメリカ文学研究」について特集企画を載せたことがあり、お世話になったことのあるジャーナルです。19世紀アメリカ文学研究ではすでにトップ・ジャーナルの地位を築いており、その編集長たちから生の声を聞けるのはかなり貴重だと思います。

私自身にとってはそこまで目新しい情報はなかったのですが、海外誌を目指すこれからの方には必聴かと思い、シェアしました。この動画の内容に基づきながら、私なりに日本と違うアメリカのジャーナルの特徴をまとめると以下のようになります。どの雑誌も基本の方針は一緒です。

1、締切がなく、随時論文投稿を受け付けている。査読審査は基本2名。J19では、査読者には六週間以内に査読レポートを送るようにお願いしているとのことだったが、これはかなり良心的。経験上、半年以上待たされることはザラ。

2、掲載されるにしても、改稿(revision)は必須。動画でも、ほとんどそのままの形で載ることはまずないと言っていた。数ヶ月かけて改稿したものを再投稿、その後、また数ヶ月かけて再審査、採否の決定、という流れ。

3、上記の理由のため、投稿から掲載まで非常に時間がかかる。早い場合は1年というケースも経験したことがあるが、2、3年は覚悟したほうがよい。

大まかにはこんなところでしょうか。日本は締め切り、掲載時期まで明確に決まっているので、業績を作る必要がある若手には安心のシステムになっているかと思います。一方、見通しが立てづらいアメリカのジャーナルは、日本の若手には酷なシステムになっています。

あと、動画を見て改めて思ったのは、論文一本の価値が日米ではかなり違うということです。日本では就職前の若手に業績三本を求めるのが普通ですが、アメリカで院生がそんなに業績を作れるわけがありません。

では日本もアメリカ式にしたらいいのではないか、というとそう簡単でもなく、そもそも研究者の母数が違うので、システム構築の面で同じようにはできないと思います(投稿がそこまで集まらない、査読者の確保の問題、等々)。あと、アメリカではジャーナルの編集長になると授業負担の軽減などが大学から認められるくらいで、相当な仕事量が求められ、日本ではそれは難しいだろうなと思います。

私個人は、テニュア付きのシニア研究者も、就職前の院生も、同じ土俵で評価されるアメリカのジャーナルに魅力を感じており、これからも投稿し続けると思います。日本の雑誌は若手の登竜門的な位置付けになっていますが、就職してからも論文審査で戦えて、審査で忌憚ない批判をもらえる場所は海外にたくさんあります。特に博士号取得後、就職後になると、丁寧な批判をもらえる機会が減ってしまうので、私個人にとっては貴重な機会です。似たような志を持った人がこれからさらに現れることを願っています。

『週間読書人』で拙著が取り上げられました

12月20日刊行『週間読書人』の「2024年回顧--収獲動向」という特集で、拙著『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』が取り上げられました。評者は福岡女子大学の長岡真吾先生です。 「海外学術誌に掲載された論文を日本語にしてまとめた精緻な労作」と紹介してくださっています。ありがとう...