日本メルヴィル学会の機関誌『Sky-Hawk』最新号にて、巽孝之先生に『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』を書評していただきました。ありがとうございます。
巽先生にしか絶対に書けない書評で、冒頭の数ページは日本のアメリカ文学研究の発展と国際化の歴史が語られます。その文脈のなかに私のこれまでの仕事(イベントの企画等も含む)を位置付けたうえで、「日本出身のスカラー=クリティックが国際的エディター/プロデューサーをも兼ねうる21世紀の「アメリカ文学者の仕事」そのもの」(30)と評していただきました。
これは個人的にかなり嬉しい評価です。というのも、国際的に人々をつなげる仕事をこれまで公の場で評価されたことはなく、そこに目を向けてくれる人がいたらいいなあ、と思ってきたからです。私は研究発信そのものだけではなく、J19というアメリカのジャーナルで日本のアメリカ文学研究を紹介する企画を実現させたり、それに関するオンライン・イベントも企画したりなど、意識的に日本人研究者が海外に目を向け、海外研究者が日本に目を向けてくれるように努力してきました。そういった地味な活動に光を当てていただいたことで、これまでの努力が報われるような思いをしました。
続く本書自体の評では、特に本書の「脱構築以降の精読」(32)、特に『ピエール』論におけるink/kinのアナグラムなどを評価していただきました。私はこれまでデリダを論文や本で直接引用したことはない気がしますが、文学の読解においてデリダや脱構築批評にかなり影響を受けており、脱構築の盛り上がりをリアルタイムで経験した巽先生に、私の脱構築的読解に目をつけていただいて嬉しかったです。
さらにご指摘いただいて勉強になったのは、脱構築批評が隆盛を誇っていた時点で倫理批評はすでに存在したという点(33)で、そこは盲点でした。これも脱構築批評に精通している巽先生ならではのご指摘です。
というわけで、巽先生の書評は拙著の内容だけではなく、日本のアメリカ文学研究の国際化の歴史、脱構築批評と倫理批評の関係まで勉強になる、非常に濃い内容になっています。ご興味がある方はぜひお読みいただければと思います(読みたい人は連絡をください)。