『ユリイカ』のポール・オースター特集号が7月末に出版されます:http://seidosha.co.jp/book/index.php?id=3954&status=published。
私は「オースターとメルヴィル」というお題で依頼を受け、「寂しさの発明:オースターとメルヴィル」という論考を寄稿しました。
オースターが19世紀アメリカ文学に強い影響を受けているのは有名な話ですが、私は特に孤独と寂しさの描き方において、オースター作品にメルヴィルの影を読み取れるのではないか、という論を書いています。
取り上げた作品はもちろん、『孤独の発明』です。この作品には一度もメルヴィルの名前は出てこないのですが、メルヴィルを研究している目からすれば、どうしてもメルヴィルの影響をそこかしこに感じざるをえませんでした。
私は今でこそ19世紀アメリカ文学を専門にしていますが、アメリカ文学に興味を持ったきっかけは柴田元幸先生の『アメリカ文学のレッスン』と、柴田先生訳の『孤独の発明』でした。学部生のとき、『孤独の発明』冒頭の訳文の美しさに心打たれたときの衝撃をいまだに覚えています。
その後、卒論ではレイモンド・カーヴァーを扱い、大学院からメルヴィルをやるようになり、どんどんと現代アメリカ文学から離れていきました。その意味で、今回オースター作品を読み直して原稿を書く作業は、約20年越しに自分の原点に戻るような感覚でした。
また、いわゆる「論文」ではない文章を書くのは、書評を除いてほとんど初めてと言っていいと思います。今回のは「論考」と形容すればいいのかもしれませんが、呼び方はともあれ、新しいタイプの文章を書くのは新鮮な体験でした。
柴田先生はもちろん、豪華な執筆陣が寄稿していますのでご興味があれば手に取っていただければと思います。